第一・第二展示室
来日30周年 ヨーゼフ・ボイス
ヨーゼフ・ボイスは「社会彫刻」と呼ばれる社会の中に機能する芸術の概念を生み出し、60年代以降のアートシーンに多大な影響を与えました。作品の中に政治(教育)、経済、環境という社会的な要素を取り入れ、従来の近代美術を克服した20世紀を代表する作家の一人です。その活動は緑の党や自由国際大学の設立にまで関り、それは現在も引き継がれ、優れた思考の核になっています。
今年、開館20年を迎えたカスヤの森現代美術館では開館当初より、戦後最大の芸術家と呼ばれるヨーゼフ・ボイスに焦点を当て常設展示をしてまいりましたが、特に2014年は生前実現した唯一の来日から30年の節目の年にあたり、残された作品や資料から導かれる思想に改めて触れ、未来の芸術のあり方を示そうとしたボイスについて再考する良い機会であると考えます。
「私はこの8日間という短い期間で、日本をひっくり返すようなことをしようとは考えておりません。要するに、自分の作ったものをお見せしたいだけです。」
(1984.5.29 共同記者会見、赤坂プリンスホテル)
30年前、来日の際ヨーゼフ・ボイスが語ったこの言葉の示す意味は聴衆を闇雲に驚嘆させて、おとぎ話の断片を与える様な一過性のイベントではなく、後々にまで継続され、あるいは発展させるべき事柄(アート)の現時点の姿を見せるという意味に捉えることができます。
当時注目を集めていたアートの一部には、30年という時間の堆積に埋もれ、既にその効力を失ってしまったものも多く存在します。その中にあって環境問題に対する意識の高まりや経済至上主義的な社会のあり方への疑問など社会の変化や時間の経過が及ぼす作用によって、ボイスが作品やパフォーマンスを通して語ったメッセージは現在、より一層その重要性を増しています。また、そのメッセージは一部のアートファンや評論家だけに向けられた特別のものではなく、すべての人に対しての問いかけであり、時間を超えて繰り返し想起されるべき価値を有すると考えます。
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