第一展示室
田口和奈 "wienfluss"
当館では2007年のグループ展《アテンプト》以来の展覧会となる田口和奈の個展。
その間、五島記念文化賞美術新人賞の受賞、"ヨコハマトリエンナーレ2011:OUR MAGIC HOUR"への選出の他、美術館主催の企画展への出展など国内外で精力的に作品を発表。また、文化庁新進芸術家海外留学制度により2013年からの3年間、ウィーンに滞在したのを機に現在、制作の拠点をウィーンに置いています。
本展では、自作のペインティングを被写体に制作された写真作品など銀塩写真の特性を用いた独特な写真表現を追求する田口の現在の試みをご紹介いたします。
私の写真は一貫して自作のペインティングを被写体にしているが、その始まりはバライタ印画紙に魅せられたところが大きい。ペインティングは支持体の上にダイレクトに色と形をのせていくことでできあがっていくが、フィルムやデジタルから生まれた画像は何らかのマテリアルと結びつかない限り見ることはできない。だとすれば、どのような素材と結びつくのかによって、その見え方が大きく変わることを意識するべきだと思っている。デジタル写真は文化的側面から見れば興味深いけれど、マテリアルとしての魅力はほとんど感じたことはない。そういった意味からも写真は退化しているように思える。このことは長期にわたって考えている疑問であり、近年ますます、アナログ光学式写真とは何かについて自覚的にならざるを得ない。ゼラチンシルバープリントという素材は、見慣れた素材でそれ自体が特筆されることはないが、私には近代芸術が生み出した宝のように思える。白から黒への再現幅が絵画には敵わないほど広く、ナイーヴで、その薄さにもかかわらず強い迫力や色の厚み、奥行きを閉じ込めることができる唯一の素材だと思う。
「ものの白さ」という作品は、通常のアナログ光学式現像で画像を定着させたバライタ印画紙から感光済みのハロゲン化銀をすべて抜きとった作品である。また、バライタ印画紙に発色カプラ-を含ませ、カラー現像の現像処理を施してカラー発色させた作品や、染料を使って印画紙を着色した作品など、2013年は素材と発色の実験を軸に制作してきた。化学薬品の配分や温度によって、バライタ印画紙から蛍光色や透明色に近い色を発色させることにも成功した。絵具の発色に劣らないものも数多く見られた。制作活動の初期から継続して関心があることは、画像のどこをどのように見せるか、それは単純にフィルムや印画紙の大きさの問題にもかかわってくるが、最近では画像を垂直に見るか、水平に見るかの差異にも興味をもっている。
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