今津景は、多摩美術大学在学中より国内のギャラリーを中心に発表を始め、画家としてのキャリアをスタートする。大学院を修了し、二年後の2009年には「VOCA2009」にて佳作賞、2013年には絹谷幸二賞奨励賞を受賞している。また、昨年開催された”The
Armory Show 2018”(ニューヨーク)では、ガブリエル・リッター(ミネアポリス美術館)がキュレーションするセクション「FOCUS」で個展形式の展示を行うなど今、国内外で注目されている作家の一人です。
今津景の制作スタイルについては、作家本人や評論家等によって解説されている通り、世の中に溢れる夥しい数の画像の中から、作品のコンセプトに基づき収集した画像データをコンピュータに取り込み、画像編集ソフトを用いてそれらを重ねたり、組み合わせる事によって画面を構成、細部に至るまで緻密にイメージを作り上げ、独自の仮想空間を構築。そのイメージとして完成した仮想空間を元にキャンバスに油彩として昇華している。
コンピュータ上では、その特性として幾つものエフェクトを無限に繰り返し、やり直しすることができ、それは下絵を制作するというだけではなく、よりイメージを強いものに精製する作業として時間を費やしている。また、編集ソフトの操作方法によっては、本人すら予測できない結果が現れる場合があり(現象として)、それは、油彩として描き起こす際にも作品の重要な要素となって残されている。
今津の作品で特徴的なのは、キャンバス上に現れるドラマの進行が一方向ではなく、多層構造になっており、重なり合うモチーフの関係性は、流動的で時間や場所の概念をジャンプする事を可能にしている。これは歴史上、固定されたと考えられる事物が時間の経過やそれを受け止める者の立場や価値観によって絶えず変化しうる存在であると気付かせる。過去に「廃仏毀釈」をテーマに個展を行っているが、そこでは時代に翻弄され、その存在意味が不明瞭となり、破壊され消え去った仏像や遺跡などが亡霊のように歪められ、引き伸ばされた姿で再び立ち現れようとしている。これは単純なクロニクルでは表現する事が出来ない世界であり、画面上の図像のブレが時空のズレ(歪み)を思い起こさせる。
これまで美術史や社会状況を参照するようにテーマやモチーフを選定して来た今津が、昨年開催された個展では、これまであえて排除して来た自身の内面的なストーリーをモチーフと絡めるように配置して、その感情的な部分を作品に投影している。これは今までに無い新しい傾向として非常に興味深いことである。また、昨年制作拠点をインドネシアに移しているが、その身体的な変化が物事の捉え方や空間認識に変化を与え、今後制作される作品に一層の深みをもたらす事になると期待される。
芸術とテクノロジーとのつながりを意識し、その技術を巧みに利用した一見テクニカルな部分が際立って目に飛び込んでくる今津の作品ではあるが、色使いや筆触等に対するこだわりを持ち、キャンバスに油絵の具を塗り重ねていく、15世紀に始まった油彩画の歴史を汲む作家として今後も注目されるだろう。
本展ではインドネシアで制作された新作と合わせ、200号を超える大作などを展示、今津景の魅力を多くの方々に伝える。
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